\ 2023年3月26日まで /
【解説】養子縁組をして苗字(名字)を変えない場合はあるのか?
例えばある夫婦が結婚して、夫の苗字(名字)を名乗っている場合について考えてみると、
その後、夫が妻の両親の養子となる場合には、原則的には名字を「変えない」という選択肢はありません。(つまり、夫は妻の親の苗字、つまり妻の旧姓に変える必要があり、夫婦同姓を原則とする日本では、この際妻の苗字も旧姓に戻ります)
というのも、これについては民法810条にその記載があり、
具体的には
養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。
引用元:民法810条
と記載されています。
ただ「ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。」というところが気になるところだと思いますが、
これはつまり、結婚によって一度苗字が変わっている方であれば、例え誰かの養子になっても、その養親の苗字を名乗る必要はないということを意味しています。
例えば、渡辺幸子さんと鈴木太郎さんが結婚し、夫の鈴木さんの苗字を名乗ることになったとすると、
夫の苗字を選択した場合
結婚前 | 結婚後 | ||
婚約者の女性 | 渡辺幸子 | 妻 | 鈴木幸子 |
婚約者の男性 | 鈴木太郎 | 夫 | 鈴木太郎 |
先ほど申し上げましたように、その後夫が妻の親の養子になる場合には、やはり渡辺太郎になる必要があり、
その他、夫が第三者の「佐藤」という方の養子になる場合にも、やはり佐藤太郎になる必要があるのですが、
妻である鈴木幸子さんが佐藤さんの養子になる場合には、妻は結婚によって一度名字が変わっているため、鈴木のままでOKということです。
このように、第三者まで絡んでくるようなケースでは、苗字を変える必要がないケースもあるのですが、基本的に夫が妻の養子になる場合には、苗字を変えないというような方法は普通はありません。
養子縁組の目的は?妻の方の苗字を名乗るだけなら養子縁組は不要です。
養子縁組の目的として、例えば夫を婿として妻の実家に迎え入れ、妻の方の苗字を残してもらいたいというケースが1つ考えられるかと思うのですが、
この場合には、結婚する際に妻の方の苗字を選択すれば良いだけの話であり、特別養子縁組をする必要はありません。
それに、現在の日本に「婿」という制度はありませんので、例え夫婦が結婚して妻の実家に入る場合でも、苗字は夫の方を名乗ることもできます。
[aside type=”pink”]それでも、世帯は1つにすることが可能です。世帯(住民票)と戸籍の情報は別なので、混同しないようにご注意ください。[/aside]
例えば「サザエさん」の例ではまさにそうなっていますが、サザエさんの旦那であるマスオさんは婿として妻の実家(磯野家)で暮らしていますが、苗字は磯野ではなくフグ田です。そのため、フグ田マスオさんと磯野波平さんは養子縁組をしていないことが分かります。
磯野家 | フグ田家 | ||
夫 | 磯野波平(54) | 夫 | フグ田マスオ(28) |
妻 | 磯野フネ(52) | 妻 | フグ田サザエ(24) |
子 | 磯野カツオ(11) | 子 | フグ田タラオ(3) |
子 | 磯野ワカメ(9) |
ただ、結婚と同時に婿として妻の方の実家に入るのであれば、その際に苗字を変更すれば良いのですが、
婚姻関係を結ぶ際に夫の苗字を選択し、その後夫婦で生活していたところで妻の実家に入ることになった場合には、
養子縁組をする以外には、妻の苗字に変わる方法はありません。
ただ、一度離婚して妻が旧姓に戻り、再婚の際に妻の苗字を選ぶという方法はあります。
[aside type=”pink”]通常女性が再婚される場合には100日間の待婚期間が必要となりますが(離婚時に妊娠していない場合、離婚後に出産した場合は必要なし)、同じ方と再婚される場合にはこの待婚期間は必要ありませんので、すぐに再婚の手続きを進めることが出来ます。この待婚期間は、もしもすぐに再婚された場合に、誰が本当の父親かわからなくなるのを防ぐために適用される法律であり、親が同一であれば適用されません。
参考:民法733条「再婚禁止期間」より
なお、同じ人同士で再婚して苗字を変更される場合には、離婚によって妻は新しい戸籍を作ることになり、そして再婚の際夫が妻の戸籍に入籍することによって、妻の旧姓になることが可能となります。[/aside]
ただし、婚姻関係を結んでいる間は、夫の苗字と妻の苗字のの変更を行うことはできませんのでご注意ください。
養子になるとはどういうことか?
養子になるとは具体的にどういうことかというと、
これは法律的に親子関係になることを言い、養子となった子供は、養親の本当の子供とまったく同じ扱いの子供となります。
そのため、例えば養親には実の子供が2人いて、そこに養子として入った場合には、
他の2人と全く同じ権利を持つため、養親の遺産も3人で均等に相続する権利があります。
また、そういった相続の都合上、何とか子供以外の第三者に遺産を譲りたいがために養子縁組をしたいと考えている方ももしかするといるかもしれませんが、そういった場合はわざわざ養子縁組をせずとも、遺言書を書いておくことで、遺産を第三者に譲り渡すことが可能です。
ちなみに養子になるということは、その養子になった人物にとって養親は実の親ということになりますので、そこで扶養の義務が生まれることになります。また、もともとの自分の親についてもやはり親子関係は続くので、養子になった人物はその双方に対する扶養義務が生じます。
このように、養子になるということは様々な事柄が絡んでくることなので、単純に苗字を無くさないでほしいということだけでしたら、わざわざ養子になる必要はありません。その目的のために養子縁組が本当に必要かどうか、まずは相手方を含めよく話し合って決めましょう。
まとめ
今回の記事では、養子縁組をした際の苗字(名字)の変更に関する決まりについてまとめました。
基本的に、もしも妻の親と養子縁組をした場合、夫は苗字を変えないという選択はできません。
また、単純に苗字を次の代まで残してほしいというだけなら、ご結婚される際に妻の方の苗字を選択されれば良いだけなので、是非これからご結婚される方などは参考になさってください。記事中でお話ししましたように、離婚と再婚によって苗字を妻のものに変えることも可能です。
なお、実際に養子縁組をされる方は、その際のメリット、デメリットについて、不明な点があれば税理士や弁護士の方に相談されることをお勧めいたします。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。